はれて子供たちのヒーローとなったおじさん。
それから年に一回の行事でなく、おじさんに会いに行く(正確にはポケモンを貰いに行く)と年に2、3回のペースで会うようになりました。
完全無欠のポケモンらを持つおじさん。家族でもポケモンの話題にはいつもおじさんが入ってくるようになりました。
おじさんはあのポケモンを持っている!今度交換してもらうんだ!とはしゃぐ子供たち。それだけおじさんのインパクトは強かったのです。
普通の会話には全く興味を示さないのですがポケモンの話となると目の色を変えて話にグイグイ入ってきます。それだけポケモンが好きだったのでしょう。
おじさんの奥さん(以下おばさん)も「あんな顔みたことがない。いっつも暗い顔ばかりしているから本当にありがとう。」となぜか私がお礼を言われました。
それだけおじさんも子供とはいえ誰かに頼りにされることが心からうれしかったのでしょう。私たちどころかおばさんですら知らない顔でポケモンの話をするようになったのです。
そしてほどなくして私は念願の自分の院を構えることに成功しました。
親戚一同もお祝いに駆けつけてくれました。おじさん、おばさんもお祝いにきてくれました。
そんなお祝いのさなか私はおばさんに呼ばれました。
私はなんだろうと思い話をきいたところ、
「うちの主人、腰が痛くて痛くてたまらないらしいんだけどほかのところだと知らない人に体を触られるのがいやらしくなかなかいかないの。ここでなら治療させてもらえるかな?」との相談でした。
私は有無も言わずに「もちろん!」と答えました。そしてほどなくして実際に患者としてきてくれました。
単なる腰痛治療できたと思っていた私はそこで衝撃の事実を告げられます。
おじさんは数年前から末期ガンで手の施しようのない状態でした。医者も匙を投げ、定期的に来る程度であとは余生を楽しんでください。そう告知されたそうなのです。
今の腰痛も癌の影響で発生している腰痛と医者に言われていました。
私は驚きました。悲しみました。
せっかく子供たちのヒーローになれたおじさん。人に頼られることの喜びを知ったおじさん。そんなおじさんが末期ガン・・・
でもなにかやれることはないか懸命に探しました。どれだけ腰の痛みが強くても医者は薬を処方するだけ。効くならまだいいが全く効果が感じられないらしい。それなら鍼灸で少しでも手が打てるのでは?と提案しました。
おじさんに具体的な治療内容を説明しました。まずウォーキングの姿勢。ポケモンをやりながらでもいいからとにかく続けること。だけど携帯を見てのウォーキングは中止。更に歩き方の指導、家での過ごし方指導、食生活の改善提案など様々な内容を提案しました。
私も肝臓、腎臓と脈上で会話しながら望診、切診を慎重になりながら適度な鍼を打つことにしました。
そしていよいよおじさん復活計画が始まります。
最初に二、三回ほどは驚くほどまったくなにも変化がありませんでした。それどころか鍼の痛さやお灸の熱さなどもまったく感じませんでした。
もちろん脈上でも、ほかの診察でも変化がありません。
どうしよう。困った。ここまで変化が出ないとは・・・
そう思った次の診察のことでした。
「今日は腰痛がマシだったわい。なんかウォーキングも痛くなかったなあ」
その日の鍼灸でも痛みと熱さを感じるようになったとお声を頂きました。
きたきたあああ!!変化がきたああああ!!
脈上でもわずかに前回とは違う反応が診られました。
私は飛ぶようにうれしかったのを今でも覚えています。
そして何度か治療を重ね迎えた正月。
いつものように親戚一同私の家に集まりました。
毎年のように親戚で楽しくしゃべり、いつも通り子供たちは異常なハイテンション。
いつもとちがうのはおじさんが子供たちの輪の中にいることでした。
やはりおじさんはヒーローでした。少しずつ歩ける距離も増えて、子供たちに見せてあげたいと今年は例年以上にポケモンをとってきたとか。私は施術者としても親としてもとてもうれしかったです。
しばらくして前回のように初詣に行こうと話になりました。
前回はちょびちょと歩いて、あとは永遠に地蔵として座っていただけの初詣。今年はどうかな?まだ早いかな?と私は心配になりました。
するとどうでしょう。
初詣の長蛇の列にも並べて、ほとんど座り込まず歩き続けているおじさんの姿がそこにありました。
まわりの親戚からも「え?なんで?」という声が上がっていました。それだけ去年とはまったく違ったのです。
私も治療はしていましたが歩く姿などは実際初めて見るので驚きましたが、私はおじさんがとても誇らしかったです。
おじさんは並びながらポケモンをしているので、私はおばさんと目が合い思わずアイコンタクトでグータッチ。
本当にうれしかったです。
治療を始めて数か月。おじさんの状態は私が診るかぎり徐々に良くなってきました。
忖度ではなく、傍から見ても歩く姿とスタミナが違いました。おじさんも日によっては腰痛が無い日も現れるようになってきたのです。
これってガンも良くなってきてるんじゃない?そんな会話も笑いながらおばさんともするようになったくらいです。
そんな心配を他所に、おじさんは今日も子供に自慢するためにイソイソとポケモンを取りに行くのでした。
Part3に続く