鍼ってたくさん打てば効くの?

※治療には様々な考え方が存在しますが、今回のブログは私なりの個人的な解釈のお話です。予めご了承ください。

今回の題名もよくご質問を受ける内容です。

鍼灸のことを詳しくない方は大体思いますよね?

「鍼ってたくさん打てば効くでしょ?」

普通は思いますよね。私も思ってましたもの。

昔とある勉強会に参加した際隣に座った先生がすごく自慢げに話していました

「俺は頭の先から足の先まで大量の鍼を使うんだよっ!大体ひとりあたり50本は使うかな?君は何本くらい使うの?」

私は話を聞いていてちょっと「ん?」と思いました。

今回はそんな事情をお話ししたいと思います。

1、鍼のもある!用法容量

みなさんにお伝えするため私がよく使う言葉です。

なんで薬には〇錠までと書いてあるかわかりますか?

普通ならたくさん飲めば効くと思いますよね。

でも必ず制限がかかっているのはなぜでしょう?

それはそれ以上は無駄であるし、体への負担が大きすぎるためです。

いわゆる用法容量を守ってってやつですね!

この用法容量というのは実は鍼灸の世界にも存在します。

鍼灸の世界でも同じでそれ以上刺しても無駄だしお身体への負担が大きすぎるという意味です。

私の治療では鍼は10本以上は刺しません。

患者さん個人に合わせて鍼を刺しますので正確な本数は決まっていませんが、基本8本以下、多くて10本までです。(美容鍼の場合はもう少し本数は増えます)

鍼というのは少ない刺激でどれだけ効果が出せるのか!というのが我々治療家の腕の見せ所でもあるのです。

現に有名な先生ほど少ない本数で治療しているのは私たちの中では常識なのです。

それをわざわざ50本刺して自慢しているのはちょっと違うかな。。。と思ってしまいました。

毎回毎回何本刺すということは患者さんにはお伝えしません。臨機応変に数は変化させます。触っていてここに違和感があるという場合があるときは他のところよりも優先して突発的に刺すことがあるからです。

ですがここで問題なのが「数が少ないから手を抜いているんじゃないか?」と勘違いされてしまうことです。

ある程度は事前に説明しますが一般の方なら数が前回より少なかったら手抜きを思われてますよね。

当院ではそんな不安を避けるために事前のインフォームドコンセント(施術の説明と患者さんへの同意)をしっかり行います。

長くなりましたがまとめです。

鍼は多ければ効果的なものではない。むしろ少ない数でどれだけ患者さんを支えられるか。
これがとても重要なことなのです。

2、人の身体は優しさでよくなる

昔のブログにも書いたのですが過剰な刺激は時に人の身体だけでなく感情、生活まで悪化させてしまう可能性があります。

いわゆる強モミ体質の方がいい例ですね。(めちゃくちゃ強く揉まれることで快感を得たいと思える体質)

強く揉めば揉むほど次はもっと強く、その次はもっともっと強く、その次は・・・と終わりなきループになってしまう恐れがあります。

勿論その快感を得たいためにお金を支払いマッサージを受けることは悪ではありません。ですが当院ではそういった過剰な刺激を与えることは致しません!(ドクターX風)

また同時に強モミ体質の方は怒りやすい性格であったり、食生活が偏ったりとされる傾向にあると分析しています。(肝実体質と呼ばれるものです)

先も言いましたが強刺激欲求を満たすのであればかまわないません。ですが治療という観点では逆効果です。

人の身体は優しさでしか変わらない。これは子育てと同じなんです。

子供に叱りつけてばかりでは何も変わりません。ただフラストレーションが溜まるだけで叱る言葉はその場で子供の思考を停止させ、自分で考える能力を低下させてしまいます。

子供を良い方向に導くには優しさで言葉をかけてあげるしかありえないのです。

これは大人いや人間すべてに共通していることなんです。

その人の身体を良くしたい、良い方向に導きたいと思うならその人の身体には我々は優しくあらねばなりません。

今回のお題と照らし合わせると、大量の鍼は優しくないと言っているわけではありませんがその分刺激量も増えてしまいます。その過剰な刺激では自律神経も過剰刺激となり、結果その人の身体には優しくない施術になってしまいます。

その人の身体をどう導きたいのか?それを考えると自然と鍼の本数は減っていくものなんです。

3、鍼は少なければいいの?

2、でお話ししたことが本当なら鍼は1本の方がいいんじゃないと思いませんでしたか?

究極でいえばおそらく1本だけで治療したほうが本当の意味では正解なのかもしれません。

現に鍼灸の流派でも1本鍼を掲げて腕を研鑽されている組織もあります。

私は率直に素晴らしいと思います。鍼1本でどこまで挑戦できるか、どこまで人に変化を与えられるかを常に高い意識で取り組まれている流派なんです。

ですが私の中では鍼は最低でも4本以上は刺すと決めています。

それはなぜか?

それはバランスを調節するためです。

「表裏一体」と言った言葉があります。

これは鍼灸でも、いや人間の身体にも言えることなんです。

人の身体のことでも分かりやすくいえば自律神経なら交感神経と副交感神経。体質でいえば実と虚。広義の意味では男と女。など対になるものが大体存在します。

それらのバランスを取るために最低でも4本は必要だと私は考えています。

気づいている患者さんも中にはいましたが私の打つ鍼は足だけや手だけ、肩だけでは刺しません。

例えですが肩が主訴ならば肩周りが実(要するとこわばりのようなもの)していたらその反面足を虚(要すると緩みのようなもの)すると考えます。

その場合は肩にある肩井(けんせい)というツボと足にある陽陵泉(ようりょうせん)というツボを選択しバランスを調整します。

また補足として体全体の緊張や関節の硬さ、首の可動域を確認しそれらを補うツボも選択します。

こうして身体の部分だけでなく全体も調整するといったかんじです。

人間は一番痛い所だけ治療するだけではよい経過は辿れません。

なぜそこか痛いのか、なぜここに痛みがでているのか、なぜ・・・を探っていくと自ずと見えてくるもの。それは全体のバランスです。

それらを調整し、患者さんを支える。これが私の仕事なんです。

また脱線した感がありますが、そこには私のこだわりと熱意、情熱があると思っていただければ幸いと思います。

最初にも書きましたが今回の記事はあくまで個人的な所見です。鍼灸のやり方には無限大の可能性があります。ほかの施術を否定しているわけではありません。

ただ今回は私の鍼灸への考え方や患者さんへの考え方を少しでも知って頂ければと思い書かせていただきました。

また今後私の鍼灸の考え方も変わってくるかもしれません。しかし本質は同じです。

患者さんに自分が持てる最大限の治療を提供すること。

これは私の中で永久に変わらないものであるのです。

おわり

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